日々是遊歩。見て、聞いて、感じて、それを殴り書き。

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「ツール・ド・おきなわ 2009」本島一周参加記録 Part.3

 ダメージは静かに蓄積する。

 それがふとしたきっかけで、一気に噴出するからたまらない。
 まったく予想もしないタイミングで、私はそれを思い知らされた。


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奥やんばるの里の昼食会場。

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カレーと豚汁にありついた。
大変美味かった!


 この昼食をいただこうと、椅子に座った瞬間、ハムストリングと尻の筋肉がつってしまい、思わずそのまま立ち上がってしまった。

 痛い!
 歩けない!
 座れない!

 立ったまま、筋肉を伸ばすように体重をかけ、ゆっくりと痛みが引いて行くのを待つ。
 横を通って行く参加者の目が、「何やってんだコイツ?」というそれに変わっている。
 ああ、情けない。尻の筋肉がつったなんて、大声で言えないじゃないか!

 じっくり時間をかけて体勢を整え、もう一度着座。
 ふう、今度は無事だった。
 前置きが長かったが、ここでやっと昼食にありつけた。

 昼食休憩をとっている時に、またPedalFar!ジャージの方々とお会いできたので、それぞれご挨拶を交わす(ここで、新たにブルージャージのハーフジップ着用の方とお会いできた)。
 皆様、口を揃えて言うのは、午後の行程の厳しさだった。やれやれ。

 出発前に携帯を開き、近況をつぶやいておいたtwitterに、@で多数の励ましや応援のメッセージが届いているのを見て、妙に力強い気分になる。

 ほとんどの参加者が、やんばるの道の途中で口にしていた言葉。
 「みんながいるから頑張れる」
 それは現実の世界で向き合っている場合でも、ヴァーチャルな世界を通したメッセージのやり取りでも同じ事だ。

 お礼と近況報告のメッセージを送り、気合いを入れ直してから、寝かせたままだった車体を起こす。

 初日午後。
 ツール・ド・おきなわ 本島一周サイクリング&やんばるセンチュリーライドの参加者は、最大の難所、「やんばるの森」に突入する。

【11/7日 初日午後】
 奥やんばるの里を、正午ちょうどくらいに出発。
 その前に、筋が伸びたハムストリングをしっかりもみほぐしたのは、言うまでもない。


P1000364.jpg
やんばるの森の、お約束。

いや、個人的には是非、
飛び出してきてもらいたいんだが。
(テナガコガネでも可)


 初日午後は、多くの参加者が「アレはキツいぞ!」とレポートに上げている、やんばるの森。
 どんな場所か、期待度20%、不安度75%、なんくるないさぁ度5%くらいの気分でサドルにまたがる。
 奥やんばるの里を抜け、国道58号の最終端を過ぎた所にある、道路情報の電光表示板がこうなっていた。

 「チバリョー ツール・ド・オキナワ」

 県道だから、恐らくこの電光表示板の管理者は沖縄県。
 全県挙げての応援体勢とは、ホントに有り難くて気持ちがいい。
 逆光で画像は散々だったので掲載できないが、肉眼と記憶にはしっかりと焼き付けさせて頂いた。

 やんばるの坂は、昼食会場を過ぎたらすぐ、いきなりキツいのが来ると聞いていた。
 だから、昼食は食べ過ぎないように、とも。

 ・・・ま、私はハンガーノックの方が怖いので、ちゃんとしっかり食べてしまったのだが(^^;)。
 (満腹での登坂なんて、結構、普段からやってるし)

 奥やんばるの里を出て、数分ほど平坦路を走ったら、すぐに道が上り勾配になり始める。
 それがしっかりとした「坂」と認識されると、周囲は急に樹木で覆われはじめ、はっきりと、「やんばるの森」に突入した事を感じさせてくれた。


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いきなりはじまった登り坂。
しかし、東京の丘陵地のそれと比べ、
ここも勾配自体はそれほどでもない。


 いきなり激坂だと聞いていたやんばるの森だが、しかし、やはりというか、勾配自体はそれほどでもない。
 これなら、鶴峠の11%のアップダウンの方が、余程強烈だ。

 しかし、長さは「辺戸の登り」以上にしつこい。
 おかげで、辺戸の登り同様、参加者が後ろから抜き、前から落ちてきて。
 交通量が少ないから助かっているものの、車線一杯に参加者が広がって、ゼエゼエハアハア。
 一般の皆様から見たら、何の罰ゲームの途中ですか?と言いたくなるであろう風景だ。

 最初の坂は、激坂と聞いていたが、冷静に見れば、斜度はそれほどでもない。
 この私が、インナーローまで追い込まれなかったから、それは間違いないはずだ。
 少なくとも、東京近郊で言えば、鶴峠や松姫峠、風張峠のような急峻さはないと見て良いと思う。

 ただし、距離は長い。
 クネクネと曲がった道を、何カ所もカーブを越えて行くが、その先にずっと登り坂と、苦しんでいる参加者の列が続く。
 時折、クライマー体型の参加者がスイスイとその車列を抜いて行くのを見ると、物凄く羨ましい気分になる。

 そして周囲は、急激に鬱蒼とした森林に変わる。
 針葉樹や照葉樹だけでなく、見た目には落葉広葉樹のような樹木も、結構混じっている。
 それが、結構高密度でわさわさと生えているので、森の中は結構暗い。
 走行中、道路が樹冠で完全に覆われる場所は、濃いスモークのアイウェアでは恐らく、暗さを感じるくらいになっていたと思う。

 そして、全体的に木々の樹高が低く感じる。
 これが関東の森林だったら、関東ローム層と相性のいいケヤキなどが、化物かお前は!と言いたくなるほど、ズドン、と立ち上がった巨木になっている事も多いのだが、やんばるの森の木々は、全体的に小振りで、ヒョロヒョロと細長い幹をしているように見える。

 しかし、樹冠は水平に広がって、天蓋のようになっている木も多い。特に、照葉樹にその傾向が多いように見られた。
 なんだか、日本の山の山林(特に本州)とは違って、どことなく熱帯雨林を思わせるような雰囲気がある。

 この、やんばるの森にしか生息しない動物が多いのも、この特殊な環境を見れば理解できる気がした。


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道路脇の側溝にあったこんな物。
小動物が落ちても、這い上がれるよう、
脱出口が設置されている。

場所によっては、
数メートル間隔で設置されていた。
(私はこんな物ばかり見ていた気がする ^^;)


 最初の登りは、話に聞くほどの激坂とは思えず、私としてはそれほど苦しまずにクリアした。
 このとき、並走していた車から、allsportsのカメラマンが撮影していたが、それに暢気にVサインを返していたくらいだから。
 (後日、公開された写真では、見事に馬鹿面を晒していた ^^;)

 そして、登りがあれば、当然、下りがある。
 最初の登りをクリアした先の下りは、一気に海岸線に向かって標高を落とす道で、所々に自然の造形でできた絶景が広がっていた。


P1000373.jpg
最初に到達した下り坂の途中。
海岸段丘の縁を走る道のため、
海側の風景がとても素晴らしい。

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下り坂なので一気に駆け下りたい所だが、
通り過ぎるにはもったいない風景が連続する。

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これから進む方向を遠く望むと、
遠くに風力発電の風車が見える。
道は海沿いではなく、少し内陸沿いの、
海岸段丘上を通っている。


 所々で参加者が足をとめて風景に見入っている場所があれば、そこは間違いなく絶景ポイントだ。後続の参加者も、「お!」という感じで足をとめ、カメラを取り出している。
 もちろん、まっしぐらに通過して行く参加者も多かったりする(いや、そちらの方が多いかな、全体的に見て・・・)。

 一通り風景を楽しんでから、私も先を急ぐ。
 午後の行程は、やんばるの森を抜け、大浦湾岸の久志まで南下した後、名護横断道路で本島を横断して、喜瀬ビーチまで走るという、結構な強行軍だ。
 しかも、久志にあるエイドステーションに、17:30までに到達できなかったら、そこで足切りされる事になっている。
 日没が17:40で、名護横断道路には外灯もなく、暗闇の中の峠越えは危険だからそのような措置がとられるらしい(自己責任で行くことは、どうやら許されないらしい)。

 そう考えると、せっかくの絶景なのだが、あまり長居してはいられない。
 下り坂の残りを一気に走り抜き、楚洲を抜けると、また登り坂がはじまった。

 やんばるの森は、ホントにアップダウンが多い。登っては下り、下っては登る事の繰り返しだ。
 平坦な場所は少なく、午後になって、照りつける日差しにも容赦がない。登りの苦しみの上に、暑さへの対処も必要になってくる。
 東京の初冬に合わせて、伸ばしたままだった髪が汗で首筋に貼り付き、不快だ。
 短く切ってくるべきだった、と、昨日から何度目かの後悔が頭をよぎるが、今さらどうしようもない。

 そして、登り坂だから当然、速度は落ち、走行風も受けられず、暑さが増してくる。
 この時になって初めて気付いたが、私が「登り坂より向かい風の方がましだ」と思う一番の理由。
 この、「熱」の放散がうまく行かない事。その一つに尽きる。

 私は、普段から結構、平熱が高め(36.6度くらい)だが、発熱には弱く、37度越えで膝がふわふわしはじめ、38度になったら、もう動けない。
 おかげで安静にせざるを得ず、回復が早いという事もあるかもしれないが、とにかく、発熱には弱い体だ。

 それが、登り坂だと運動負荷が高い割には速度が遅くて走行風が当たらず、体は熱を帯びて行く。
 向かい風なら、運動負荷は高くても、風がいつもより強く当たるから、熱の放散は一気に進む。

 私みたいな体質だったら、そりゃ、登りよりも向かい風の方が負担が少なく、楽に感じるのも無理はないな(納得)。

 しかし、それを理解した所で現状が好転するはずもなく、楚洲から南下する道をひたすら登る。
 風、風通しがいい場所か、下り坂、早く来い、と念じながら、最初の坂で既に脚力配分が終わって、前後の順位の入れ替わりも少ない車列に乗って、ノロノロと進んで行く。

 と・・・頭上からブゥンというか、ビュウンというか、何か巨大な物が風を切る音がした。
 今までも、一応は坂の上の方を見ながら登っていたのだが、視線をさらに上。
 木々の樹冠よりさらに上に上げると・・・。

 風力発電の巨大な風車が正面にドーンと立っていて、その巨大なファンが風に吹かれて回転していた。
 カーブを曲がった時に、いきなり正面の視界に飛び込んでくるのだから、このインパクトは物凄く大きい。
 さっき、遠くに見えていた風車の下まで来たのか、と理解するとともに、この巨大な風車を、どうやってここまで運んできたのか、ちょっと不思議に感じる。

 ちなみに、こういう時、ヒトの目は不思議な事に、近い場所は広角レンズ、遠くの物体は望遠レンズで見たような感じで、実際の遠近法で描くより巨大に風車の姿を捉えている場合が多い。
 今、視界のほぼ全てを覆い尽くそうとしているド迫力の風車だが、デジカメで撮影したら、案外、小さく写り、こんなもんだっけ?という拍子抜けした感じになる事は多いと思う。
 この風車が正面に見えた時の迫力は、実際に走って体感して頂くしかない。

 風車前を少し過ぎたら、また下り坂。
 そこからは海岸段丘の縁を離れ、道は内陸へと入って行った。そして、大小あわせて、もはや数え切れないくらいのアップダウンの繰り返し。
 昨夜の説明会での、実行委員長の言葉が蘇る。

 「沖縄の坂は、一気に登って、一気に下るという、そういう特徴があります」

 どこが!と、心の中で大絶叫していた。
 一気に登る坂は、東京なら百草園の坂みたいな奴を言って、一気に下る坂は、風張林道の12%下りみたいな場所を言うんだよ!
 と、温厚で人柄の良さそうなツール・ド・おきなわ開催実行委員長にハリセンチョップを決めるという悪鬼羅刹の所業としか思えぬ映像を心の中で繰り返しながら、長いながい坂道を登る。

 あまりに坂道が長いためか、少し急勾配の場所を抜けて緩勾配に来ると、それが平坦に見えてしまったりする事もある。
 そしてその先には、当たり前のように急勾配が待っている。

 まわりの地形も、道路とほぼ同じ勾配で続いているため、稜線の位置がまったく見当がつかず、どこまで登れば坂が終わるのか、全然わからない。

 平坦だと思った場所が、実は緩い登りで。
 どう見ても登りだろ、という所はやはり登りで。
 平坦に見えるカーブが現れ、よし、あそこまで登ればいいんだな、と思ってカーブを曲がると、新たに広がった景色の先は相変わらずの急勾配だとか(これは本気で萎える)。

 下り坂もあるにはあるものの、速度が上がる分、一気に駆け抜けてしまうため、下りの恩恵を受けた覚えはほとんど残らない。
 そして、下ったと思ったら、また登りがはじまり・・・。

 この「やんばるの森」の森の坂の苦しさは、一度走ればきっとわかる。

 急勾配の激坂に喘ぐ苦しさではない。
 斜度は、それほどきつくない。むしろ、緩い場所が多いかもしれない。
 しかし、その緩い斜面が、延々、どこまで行けば終わるか、地形から当たりをつける事もできず。
 稜線地形だと思った場所が、単なるギャップですぐに登りに転じ。
 平坦で下りと思った場所が緩い登りで、その先にはまだ急な登りが続いていて、とにかく、いつまでも果てる事がないように思える。

 それが何度も繰り返される。一瞬の下りの先に、また同じような果てしない登りが現れる。
 正直、ボディーブローとか、そんなレベルじゃない。
 もっと悪質な何かに捉えられた気分になり、クランクを回すごとに、精神力を"かんな"で徐々に削られて行くような、そんな苦しさを感じる。


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やんばるの森を走行中の、典型的な風景。
緩斜面の先に、急斜面が見える。
ワンスパンの登り区間の中で、
これが何度も繰り返される。

正直、何度も心が折れそうになる。


 道路脇の木陰で、足をとめて休んでいる参加者の姿が多くなる。
 既に乗車を諦め、押して歩いている人もいる。
 足がつったのか、救護を受けている人も見かける。
 精神力が切れたのか、急にふらついてガードレールに接触、落車しかけた人も見た。
 あんなに多弁だったはずの参加者から、おしゃべりの声が消える。
 互いを励ます頑張れ、という声も、もうかからない。

 時々、サポートカーや回収車などが、参加者の列の中を行ったり来たりしているのは、ここでリタイヤを選択した参加者を即座に収容するためだろう。
 何度か、回収車(マイクロバス)と、リタイヤした参加者の車体を運ぶトラックと、抜きつ、抜かれつで走った。
 抜かれる回数が増えるごとに、回収車の窓から振られる手の数が増え、トラックの荷台に載せられた自転車が増えて行く。

 私は回収された方がましだ、とはまったく考えなかったが、それでもこのやんばるの森のアップダウンは、噂に違わぬ難所だと、それだけは本気で理解できた。

 ボトルのドリンクと水が、どんどん空に近くなる。2本持っているのに、まだ足りなくなりそうで、かなり心細くなる。
 しかし、周囲にはコンビニはおろか、自販機や民家さえもまったく見かけない。
 電柱も通っていない場所が多く、本当に「文明から隔絶された場所」だと理解できる。もしも自販機があったとしても、先行する参加者が殺到して、めぼしいドリンクは「売り切れ」になってしまっているだろう。

 そんな森の中に、一本の舗装道路が走っているのが、なんだか奇妙な話に感じられてきた。
 どんだけヒトは、「文明」という巨大な巣を拡大させれば気が済むのかと。

 哲学を気取っても苦しさが紛れる訳ではなく、自分の呼吸音と心音以外に、風と、ロードノイズと、チェーンがカラカラ鳴る音だけを聞きながら、空の青と、森のダークグリーンと、路面のグレーと黄線と白線だけを見て走る。
 時々、人工的な構造物として現れるのは、携帯の電波塔だったり、何故か米軍施設だったり。

 ・・・この人達も、何ともたくましいな、別の意味で。

 何度、そんなアップダウンをクリアしたかはわからないが、いくつ目かの下りの先に、久しく目にしなかった電柱と人家の屋根が見えてくる。
 そして、色とりどりのサイクルジャージをまとった集団が、一カ所に固まっている姿も見える。

 誘導員の指示に従って、減速、停車。
 何時間もかけたような1時間の走行を経て、休憩地点、安波共同売店に到着した。


P1000381.jpg
安波売店到着。
本気で救われた気分だった。


 そこは川が二本、合流する「出会い」の地形で低くなった、盆地のような場所だった。
 この安波売店は単なる休憩所として使われただけだが、自販機もあれば店内でアイスも買えるなど、休憩所としてはかなり有り難い場所だった。早速私も、赤い炭酸飲料の形をした回復薬を飲み、ボトルにドリンクを補給する。
 ついでに、サリチル酸メチルの臭いに誘われるまま、膝とふくらはぎに消炎剤をスプレーしてもらった。この程度の"ドーピング"では、気休めにしかならない事はわかり切っているものの、何か少しでも楽になる事をやっておきたかった。

 やがて、強制停止されていた先頭集団が動き始め、休憩中の参加者が徐々に先へと進み始める(もちろん、まだ続々と後続は到着中だ)。
 頃合いを見て、私も先へと進む。

 安波の出口で、再び道は登り始める。今度の登りも、ずいぶん長そうだ。
 覚悟を決めてフロントをインナーに落とすと、幸運を呼ぶチョウ、ツマベニチョウが2頭、結婚飛行か縄張り争いか、向き合ったままゆっくりと道路を渡って飛んで行くのが見えた。


P1000388.jpg
相変わらず森は深い。
それでも所々、
切り開かれて畑地になっていたりする。


 ここから先のアップダウンも、今まで同様、非常にしんどいものだった。
 時々、台地上の赤土の平場を利用して、広大なパイナップル畑が広がっているのが見えたが、ほとんどがまた、深い森の間を縫う、アップダウンの激しい道だ。
 例によってハアハアゼエゼエ言いながら、登っては下り、下っては登りを繰り返す。
 先程の休憩所で消炎剤を吹いた両足だが、だからといって急に回復するものではなく、疲労がどんどん蓄積して行くのがわかる。

 まあ、無理もない。
 午前中だけで、約100km走っている上に、こんなダラダラしたアップダウンの繰り返しでは、足を休める暇などどこにもない。

 何度目かのアップダウンに差し掛かった時、この登りは、実際はフロントアウターでも登れる程度の斜度と長さだと気付いた私は、さっと腰を浮かしてダンシングしようとして・・・。
 足にグッと力を入れた瞬間、両足にビキッと電流が流れたような痛みが走り、両足の筋肉のほとんど全てが同時に硬直した。

 ダメージは静かに蓄積する。
 そして、何かのきっかけで、一気に噴出する。

 ダンシングしようと浮かした腰は、足が踏ん張れなくなってそのままサドルの上に落下。硬直した足に変な風に力をかける事になり、また激痛が走る。
 その勢いで、車体は左右に大きく揺れ、後続車や追い越し中の参加者が居なかったのは幸運だった。

 直後に、両足ともにつった、と理解できたが、だからどうなる訳でもない。
 しかも、ここは短く緩やかとはいえ、登り坂の途中だ。失速=立ちゴケを意味しており、記念すべき立ちゴケ第一回をやんばるの森で記録するのは、絶対に避けたいっ!

 シッティングの姿勢で、激痛がビキビキ走るけれど、とにかく根性で足を回すしかない、登りが長く続かない事を祈りながら、足を必死に回す。
 十分、痛みがマヒするくらいに長い登りを経て、やっと下りに転向。クランクを水平位置にして、踵をペダル軸より下に落とし、ふくらはぎを伸ばす。
 片足ずつ、ゆっくり下死点に下ろして他の筋肉を伸ばし、何とか硬直を解いて痛みをとろうと努力するが、そんなにうまく行くはずもない。

 しかも、走りながら足を伸ばせるのは、平坦地か緩い下り坂のみで、あとは足が痛かろうがなんだろうが、とにかく足を回して登らないといけない、厳しい道だ。
 台地上の平場や緩い下りに差し掛かると、他の参加者はフロントをアウターにかけ直し、一気に加速して下って行ってしまうが、私はそこでまた足を伸ばして、何とか硬直を解こうとする。
 一向に硬直が解けない内股あたりは、皮膚の下で直接、筋肉と腱が引っ張られているかのような、ジンジンする痛みが走る。思わず指で強く圧迫し、少しでも痛みが取れないか頑張ってみるが、あまり好転しない。

 一旦降車して様子をみようと思っても、両足ともにあちこちの筋肉が硬直しており、足首をひねるその動きができない。
 こうなったら、もう根性で足を回して血流を確保し、筋肉にたまり切っている乳酸を出し切らないと駄目か、と思い、何とか登りの間だけ、足を回して必死に登る。

 この時間帯が、恐らく、2日間を通して最もピンチだった時間だ。

 地獄の痛みに耐える1時間が過ぎた頃、誘導員さんがこっちに入れ、と合図を出しているのが見えた。
 休憩地点か!

 天の助けにあった気分で、道路脇の駐車場に飛び込む。
 そこが高江共同売店だった。


P1000389.jpg
高江共同売店。
またの名を「山の駅」というらしい。


 車体を下りたら、まずは両足をストレッチでほぐした。
 痛みは、筋肉の硬直が解けるとともに引いて行く。
 やれやれ、何とか助かったか、と思い、携帯でtwitterに「高江売店なう」をつぶやく。

 周囲の参加者がアイスを食べているのが、この暑さ(到着時刻、14:00頃)の中では本当に美味しそうだったので、売店の中でアイスを買う。
 アイスを齧りながら携帯を開き、twitterを見てみると、「高江売店のすぐ手前のコーヒーハウスで、美味しいアイスコーヒーが飲めるよ」との情報を頂いていた。
 早速、お礼のメッセージを送り、足休めついでにアイスコーヒーを飲んで行こうと、高江売店の数十メートル手前にある、ヒロ・コーヒーファームまで徒歩で出向いた(それくらい近い)。
 既に店の中は、事情知ったる参加者達で満員御礼状態(笑)。

 アイスコーヒーをオーダーし、椅子に座って一息つくと、良い感じで眠気が・・・。
 いかんいかん、と頬を叩いたりして正気を保ち、高江売店で買ったアイスの残りを完食すると・・・。
 

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当てるか?このタイミングで。


 ・・・オレって、無駄に幸運な奴・・・。 


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少し待って届いた、アイスコーヒー。
満員御礼でグラスが足りず、
テイクアウト用紙コップで到着、


 ・・・ま、どうやら私は、三歩、歩いたらハプニングに突き当たる体質なんだろうか?
 ブログのネタには事欠かないけど・・・何か微妙(^^;)。

 なお、見た目はアレでも、コーヒーの味は、味音痴な私でもはっきりわかる美味しさ。
 少し、焦げ目のある感じの香ばしい香りとともに、ゆったりと味あわせて頂いた。

 さて、そんなこんなで、1時間近い休憩になってしまい、高江売店に再び戻ると・・・さっきまで駐車場を埋め尽くしていた自転車が数えるほどになり、後続到着もほとんどなくなっている状態。
 時間は15時をまわりかけ、そろそろ足切りが心配になってくる時間だ。

 急いで準備し、一人だけ走り出す形で出発。

 期せずして一人旅になってしまったが、高江から先は下り基調の道が多く、車列を気にせず、自由気侭な一人旅で走るのが実に気持ち良い場所だった。
 一旦、道を下り切ると、右にダムの堰堤、左がすぐ海という、ちょっと不思議な場所に出た。こんな場所にダムの堰堤を作っても、灌漑にも発電にも使えないだろうに・・・と思い、気がついた。
 これは多分、福地ダムの上流端にある越流堤だ。ダム本体は、ずっと内陸側にあって、最大水位が上流端の谷より高くなったためか、こうやって堰堤で締切っているという、不思議な構造のダム。
 海に流れ出す水路があるのに、ここが上流端というのも変な話だが、水問題が深刻な沖縄では、ここまでやってでも、淡水資源を確保する必要があるのだろう。

 福地ダムの堰堤を過ぎると、また登りがはじまる。
 一人旅だから、完全に自分のペースで走る事ができる。もっとも、これ以前も結局、マイペースを貫いてきたんだけれど・・・。

 アイスコーヒーでカフェインを補給したためか、なんだか体が軽い興奮状態のようで、足がとにかく良くまわる。
 種苗管理センター前の、広くて走りやすい道を一気に高速で通り抜け、途中、何人かの参加者を追い越す。この辺り、相変わらず森と農地の中の道なのに、立派な歩道が整備され、その上、街路樹を植える植栽枡まで設置されている。
 こんな緑だらけの場所に街路樹を植えても、何の意味があるのか、とは誰もが考える事のようで、植栽枡はアスファルトを敷いて蓋がしてあった。

 東村の集落が近くなってきた所だったか、道路脇に「スプリントポイントまであと1km」という表示が見えた。明日のレース部門では、この辺りでスプリンターが脚力を競うらしい。
 では私も・・・なんて事をやると疲れるのでやめにして、そのまま東村の中に入って行く。

 東村内で、途中、歩道から参加者が出てくる場所がある。何だと思って左を見たら・・・そこが休憩所のサンライズ東だったようだ。

 そのままスルーしちゃったけど(笑)。

 いや、高江から一気に駆け下りてきて、その時はまだテンションが高く、「休憩?いらない」とばかり、通過してしまったのだ。あとで後悔する事になるが・・・。

 平良湾沿いに道を進むと、何カ所か工事中で片側通行になっている場所があったが、それ以外は問題なくクリア。
 徐々に太陽が低くなってきて、日光がオレンジ色に染まりはじめている。


P1000395.jpg
平良湾沿いか、有銘湾沿いでの一枚。
そろそろ日が落ちてきた。


 先を急ごうという意識が先行するが・・・ここから先が、この日のコースで一番きつい道程だった。
 平良の先で、道が急勾配の登りに転じ、一気にインナーローまで落としても、まだ足が重い。ダメージが抜け切っていない体に、この勾配はかなり効いた。

 何とか乗り越えて、有銘湾沿いを越えて先に進む。
 途中、名護市の市境を示す標識があり、再び名護市に戻った事を知り、初日の行程ももうすぐ終わるか、と、単純に喜んだ。

 この先の坂が、ホントに地獄のように厳しかった。

 今までもそうだったが、登っても登っても終わる気がしないくらい長い登りが続き、カーブを曲がって見える新しい風景の中で、さらに道は登っている。
 しばらくの間、東村から平良、有銘など、人の住んでいる集落の間隔が近く、開けた場所を走っていたが、ここからはまた、山間部に道が逸れ、細かいアップダウンを繰り返す、「やんばるの道」そのものの道程が復活したのだ。

 今までが快調に飛ばせていただけに、ここでの失速は効いた。足がまわらない、登れない、と、苦しさが先行する。
 さっきまで、もう名護市に帰ってきたぞ、と喜んでいたのに、というか、そこで一旦、力が抜けてしまったのか、ここから先の道は本当に辛かった。

 高江から休みなく走り続けており、区間走行時間が約1時間に達している。やはり、サンライズ東か、途中の自販機前でもいいから、どこかで休憩をとるべきだった、と激しく後悔する。
 しかし、道の勾配がそれで緩んだりするわけもなく、かなり追い込まれた気分で、ついに坂の途中で足をついた。ここまで、まともに走ってきたんだから、ちょっと休憩するくらい、いいだろ、と、そんな気分で。

 後ろから、ノロノロと参加者数人の集団が追い越して行くが、皆、一様に苦しげな表情と息遣いだ。ここまで来たら、ほとんどの参加者が気力で走っているようなものだ。
 数分だけ停止し、ボトルのスポーツドリンクを飲み干して、再出発。ナビの地図で確認すると、エイドステーションまで20kmを切っている。等高線表示がないので、どこまでが登りかはわからないものの、20km以内だったら1時間もかからない。

 少し進むと登りは終わり、そこからは緩いアップダウンを何度か経て、大浦湾沿いに出る。途中、地元の皆様に信号で、「頑張れ!」と声をかけられ、Vサインを返す。まだそんな余裕があった事が力になり、クランクを踏む足にも力が蘇る。
 平坦な道を走ると、待ちに待った誘導員さんの姿。右に道路を渡れ、の合図。

 最後のエイドステーション、名護市役所久志支所に到着。16:50分。足切りは免れた。


P1000397.jpg
久志支所のエイドステーション。
このステーションには、本当に救われた。


 高江から、ほんの数分休んだだけで約2時間走りっぱなし。ヘロヘロになった体に、水やスポーツドリンク、そして補給食のバナナが最高に美味く感じる。
 思わずtwitterに、「バナナがこんなにうまいとは!」というつぶやきを流してしまったくらいだ。
 

P1000401.jpg
久志支所付近の海岸線。
もう、日が沈みそう。

対岸が、例のV字滑走路の飛行場を作る云々で、
もめている地域になるらしい。


 足切りは免れたものの、日没が来ては走れない。本当に太陽が地平線近くに落ちてきており、誘導員の方が、「リタイヤする方は、早目に駐車場のマイクロバスに移動して下さい」と繰り返し案内している。
 リタイヤ?ないね。
 そう考えた私は、最後の25kmを走るべく、サドルにまたがる。
 twitterのメッセージに、遠い場所にいる色々な方から、「頑張れ」のメッセージが届いていて、それが本当に力になった。

 17:00頃、最後のエイドステーションを出発。ここから先は、本島を東から西に横断する道だ。
 時間的に厳しくなる事と、緊張が切れている可能性もあり、ここも事前に国土地理院の地形図で予習してあった。

 この先、大浦湾の一番奥で海岸線を離れ、少し厳しい登りを経たあと、名護横断道路に出る。その道の最高地点は、登る途中に左手の尾根上を走る高圧線が方向を変えて北に向かう、その下を潜る場所だ。
 そこまで行けば、あとは下り坂と平坦な道。国道58号の交通量に注意する必要はあるが、体力的にそんなに難しいコースではない。

 エイドステーション出発直前に、ウエストバッグを探っていたら、こんな物が出てきた。


P1000400.jpg
青梅、吉野梅郷の「お!梅」
梅干しの果肉を丸薬状にした健康食品。
盛夏期に熱中症予防のため、
舐めながら走っていた。

いいの持ってたんじゃないか、俺!
ってか、最初から持ち物を確認しておけ、俺!


 塩分とクエン酸補給に、これほど有り難いものはない。
 何でもっと早く、持っている事に気付かなかったのか、その間抜けさ加減を恨みたい気分だが、最後の区間を走るため、数個まとめて口に放り込んでスタートだ。

 大浦湾から名護横断道路に至る道は、結構きつい坂道だったが、名護横断道路に出てしまえば、それほどきつい勾配ではない。緩やかな勾配を、リズミカルに足を回して行くと、左の尾根上の高圧線が、徐々に道路の方に近くなってきて、ほどなく、頭上を横断した。
 予習通り、そこからすぐ先で道は下りに転じた。一気に本島西海岸に向けて、長い坂道を下って行く。既に太陽は山陰になり、周囲は急速に暗くなってきた。
 つるべ落としに迫る夕暮れ。気温は夏でも、天体の動きは秋のそれだ。

 狭い谷を抜けていたのが、徐々に前方が開けてきて、やがて小さな集落の屋根と、その先でオレンジに輝く水面が見えた。

 名護湾だ。最後の本島横断、終了!

 国道58号に出ると、最後のご褒美のような、見事すぎる夕陽が待っていた。


P1000404.jpg
名護湾に沈む夕陽。
この風景に間に合って良かった。
とても美しい夕陽だった。


 少し足をとめて見入ってしまったが、まだ今日の行程は終わっていない。明るさが残るうちに、もっと先まで進まないといけない。
 国道58号沿いを南下する。許田のインターチェンジ付近で道路が細くなり、ちょっと危険な場面もあったが、それ以外、大通り走行は東京でも慣れている。まあ、ドライバーがあまり自転車に慣れていないようで、すぐ近くをビュンビュン抜けるのは、ちょっと怖かったけど。

 インター下を抜けるくらいで、かなり暗くなったのでライトをON。しばらく走ると、歩道に「あと100m」の表示を持った誘導員の方がいた。
 本当にすぐ先で、誘導員の方が車列をとめて、自転車にすぐ道を渡るように誘導している。こんな危険な役割をして頂くなんて、本当に有り難い。

 誘導に従い、速やかに道路を渡って、ホテルの駐車場に飛び込んだ。


P1000407.jpg
初日ゴールに到着。


 喜瀬ビーチパレス、今夜の宿所にして、初日のゴールに到着だ。
 時間は17:50分頃。まだ何とか夕焼けが残る時間帯で、多くの参加者が建物裏で夕陽を撮影中だった。

 到着した。初日を完走できた。
 あの、辛くて苦しいやんばるの森を越えて、ここまで辿り着いた。

 半ば放心する気分で、駐輪場所に移動する。
 そして最後の最後に・・・係の方に支えてもらわなければ、立ちゴケだったという位、ヘロヘロになってサドルからずり落ちた。

 もう、体力もかなり限界近かったようだ。
 明日も123kmの道のりが待っているのに、これで大丈夫なのか?

(つづく)

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YO-TA

Author:YO-TA
2011年7月に東京から仙台に移住。
相変わらず、デジカメ片手に、サイクリングやハイキングを楽しんでいます。
突然、突拍子もないことをやらかしますが、それはまあ、ご愛嬌という事で…。

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